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長野地方裁判所 平成10年(行ウ)10号 判決 1999年3月31日

原告

大久保貢

佐藤一

右両名訴訟代理人弁護士

松村文夫

相馬弘昭

被告

(下諏訪町長) 新村益雄

右訴訟代理人弁護士

早出由男

主文

一  原告らの請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第三 当裁判所の判断

一  談合の有無

本件において談合があったことを直接に証明するに足りる証拠は存しない。この点は原告らも自認するところであり、前記第二の三1(一)のとおり、本件入札の前後にわたる情況証拠により談合を推認できると主張する。

しかし、証人北澤儀友及び同林洋一は、第二次見積仕様書提出業者の選定は、第一次見積仕様書提出業者の選定後、談合の噂があったことから、その対策として行われたものである旨述べている。確かに、原告らが指摘するように、談合自体を防止するためには入札参加業者を多くすることがその効果的な対策の一つであるということができるけれども、他方では、見積仕様書提出業者を追加選定し、その見積金額をも参考として入札予定価格を適正に定めることができれば、談合による不当な価格形成を防止し得るであろうことも否定できないのであるから、一概に右証人らの供述内容が不自然であるとはいえず、他にこの点で不合理な事情の存在を窺うこともできない。そうすると、本件施設整備計画書を提出した後に第二次見積仕様書提出業者の選定が行われたことをもって、談合の事実を推認させる事情であるとみることは相当でない。

次に、本件入札の指名業者を五社としたことについては、前判示のとおり、入札参加業者を多くすることが談合を防止するために有効な手段の一つであることからすると、見積仕様書提出業者とされた九社のすべてを指名するのが望ましかったといえないわけではないが、前掲北澤証人は、五社を選定した理由として、下諏訪町の財務規則一一七条が指名競争入札の参加業者を五社以上とする旨定めていることから、従来、選定委員会において五社を超えて指名する例はほとんどなかった旨を述べており、このような前例に従った処理をしたというのであれば、殊更に五社を選定したという点を把えて、不自然、不合理と評価することはできず、このことによって談合の事実を推認することはできない。

また、北澤証人の証言によれば、町の指名業者選定委員会は、指名競争入札参加業者として五社を選定するに際し、建設大臣が発行する経営事項審査結果通知書における総合評点を参考として見積仕様書提出業者九社の中から選定することとし、大手五社から評点の高い順に三社を、準大手二社のうちアフターサービスに難があると情報のあった一社を除く他の一社を、中堅の業者二社のうちから評点の高い一社をそれぞれ選定したというのであり、その経緯に格別不合理な点は存しない。そしてこのことを前提として考察すると、第一次見積仕様書提出業者のうち住友重機の保証人となった日本鋼管を除く四社が指名競争入札参加業者として選定されなかったことについては、右のような選定基準によったことの結果にすぎないとも考えられるのであり、このことが談合の事実との関連性を有するとまでみることはできない。

さらに、入札を二回のみで打ち切ったことについては、本件全証拠によっても、町が特別の意図をもってそのような措置に及んだことを認めることはできず、むしろ前掲林証人の証言によれば、入札が二回までとされるのは異例なことではないと認められるから、右の事実をもって談合を推認させるとすることもできない。

ところで、前判示第二の二2(一二)のとおり、報道機関に送付された談合に関する投書は、本件入札において住友重機が二一ないし二二億円で落札することを予告する内容のものであり、結果的に見れば本件入札を経た後に同社が二一億五〇〇〇万円で随意契約の方法により本件請負契約を締結したこととその内容が符合しており、事情を知っている者が作成したのではないかとの疑いが残るけれども、この事実から直ちに本件入札業者の間で談合が行われたとまで推認するのは困難である。

なお、被告が関係業者間の談合に加担していたことを窺わせる証拠は全く見当たらない。

そうすると、被告が本件入札に係る談合に加担していたことを理由として本件請負契約の締結が違法であるとする原告らの主張を採用することはできない。

二  入札手続における違法性の存否

前判示のとおり、見積仕様書提出業者及び指名競争入札参加業者の選定並びに本件入札に際して、特定の企業を不当に排除した事実を認めるに足りる証拠はなく、その他、右手続に不合理な点が存するとも認められない。

そして、原告らの援用する地方自治法の規定においても指名競争入札業者の数を具体的に定めておらず、前判示のとおり、下諏訪町の財務規則一一七条及び前例に則って五社を指名したことにかんがみると、入札業者の数が五社のみであったことが直ちに本件入札の手続的違法をもたらすものでないことは明らかである。

したがって、本件入札手続が違法であるということはできない。

三  契約金額の当否

1  〔証拠略〕によれば、平成八年度の全国の廃棄物処理施設建設事業における一トン当たりの平均実勢価格は、四九トン以下の施設において五七九五万九〇〇〇円、五〇トン以上九九トン未満の施設において五二九五万一〇〇〇円であること、辰野町のごみ処理施設は、平成三年に建設されたものであり、建設価額の総額は一四億八三二〇万円であること、東部町のゴミ処理施設は、平成三年に建設されたものであり、建設価額の総額は一六億〇一六五万円であること、右両町の施設はいずれも規模が三〇トンであること、以上の各事実が認められる。

2  原告らは、右のような処理能力当たりの全国平均単価との比較や、辰野町及び東部町の各施設の処理能力当たりの単価との比較からすると、本件施設の価格は不当に高額であると主張する。

しかしながら、弁論の全趣旨によれば、ごみ焼却施設には、容量、炉形式や性能の面で様々な種類のものがあり、また、付属設備にも違いのあることが認められるのであるから、規模、炉形式、性能、付属設備などの類似点、相違点をも考慮に入れて相互の比較を行うのであればともかく、右の諸点を考慮に入れないでただ単に価格の高低を論じることは意味のあることとはいえず、右原告らの主張事実をもって本件施設の価格が不当に高額であると認めることはできない。のみならず、一般に、契約金額が入札手続によって決定される場合には、その時々において、結果的にある程度の価格の乖差が生じることは当然に予想されるところである。もとより地方公共団体の長は、財政の健全な運営に努め、非効率的な予算配分により当該地方公共団体に損失を生じさせないようにしなければならないのであるが、本件施設のように価格決定の要因が、規模、炉形式、性能、付属設備などの諸点に及び、それを総合的に考慮して判断しなければならない事業については、その検討の結果、全国平均単価を若干上回っていたとしても、そのことのみをもって直ちに契約代金の支出が違法となるとすることはできない。

したがって、原告らの前記主張は、採用することができない。

第四 結論

以上の次第で、原告らの請求は理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条、六五条一項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 齋藤隆 裁判官 針塚遵 廣澤諭)

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